「私の責任です・・・」母親からこの類の言葉を以前から耳にしてはいましたが、最近は本当によく聞く様になりました。
フレンド小児歯科が開業して本年4月で10周年になります。開業当初は「フレンド小児歯科に来院する子供達から虫歯は“0”にしよう!」とオープニングスタッフと誓い、そして、色んな変遷を歩んでここまで来ました。その間、唾液検査を中心とした予防クラブを作り、ヘルスプロモーションを取り入れ、そして現在は健康学習を導入しています。その歩みの中で、冒頭の言葉が耳に残るようになりました。
ここ2年ほどで『予防歯科』や、『虫歯“0”を目指して・・・』など私たちの周りで聞かれる様になりました。しかし、本当に予防歯科・・・ましてや『虫歯“0”』は必要なのでしょうか?あまりにもその事が先行してしまい、大事な部分が抜け落ちている、そんな気がしてなりません。
今の母親は大変まじめで虫歯に対して一生懸命であると感じます。
虫歯が4本ある子供のお母さんが同様に「私の責任・・・」と言っていました。
「お母さんは、この子がテストで何点取れば嬉しいですか?」
と聞くと大抵は70点くらいを言われます。ここで、口の中を良い所見つけをしてあげます。20本×5=100点です。虫歯でない本数、16本×5=80点をアピールしてあげる。お母さんの70点をクリアしている事を伝えてあげると、それまで溜まっていたものが堰を切って涙として流れ落ちます。『虫歯を作る=罪悪』という方程式が苦しめていたのでしょう。人は苦しいままでは前には進めません。一度苦しさから解き放ち、そして、前にある目標に向かわせてあげたいと思います。
また、「甘いもの(おやつ)」を指摘されると、おやつを無くそうという考えに陥ってしまう傾向があります。ある意味極端なのでしょうが、必死なのでしょう。
「甘いものを食べた時、お母さん自身はどんな顔になりますか?」
と聞くと、決まって、「何とも言えない嬉しい顔をしていると思います」と返事があります。甘いものを口にする事によって、表情や感情が豊かになる事もあるかと思います。
1) 虫歯は無いが感情・表情の乏しい子
2) 虫歯は少々あるが、感情・表情の豊かな子
二者択一で聞くと、母親は2を選びます。
私達、医療従事者は学生時代から『悪いところ見つけ』の癖を付けられています。病院では、検査、データ、治療、薬、生活習慣など目に見え易い部分について、話をされます。しかし、そんな医療従事者も一度、自分が医療から離れ、“健康”というものを考えた時、きっと、家族であったり、趣味であったり、時間であったり、仲間であったり、お金であったり、その様な目に見え難い部分が重要になるのではないでしょうか?
しかし、我々医療従事者はそこにはあまり触れず、話し易い教科書の切り売りをしている事が多いのです。「良い事を伝えなければ」などの思いが強いからでしょうか?
もっと絞ってみて我々歯科医療従事者も一緒で、虫歯はどうか? 歯周病はどうか? 治療はどうか? 生活習慣はどうか? という医療サイドの土俵でついつい話してしまいます。しかし、相手の土俵で話をしなければ、心は開いてくれませんし、ましてや行動変容は起こらないのではないかと思います。目に見え易い部分と見え難い部分のバランスを取る事がきっと大切なのでしょう。
健康志向・・・健康ブームはある意味良い傾向なのかもしれません。しかし、順番を間違えると全く違う形になると思います。
某テレビ番組で「健康に良い物」が取り上げられると、明くる日はスーパーからその食品が姿を消してしまう。少し怖いですね。
「人生を豊かに生きる為に健康が必要であって、健康の為に生きるのではない」現代社会に言えるのではないでしょうか?
『虫歯を無くす』という結果にこだわり、大事な部分を見落としてしまう・・・我々医療従事者も世間もそんな部分に陥らない様に気を付けたいと思います。『イキイキ暮らし、その結果虫歯が無い』ことが必要であって、ただ単に虫歯が無いだけではいけない様に思う今日この頃です。
昨年、大阪でLECという健康学習の勉強会を開きました。昨年の1期生の倍近い人数、約40人が今年の2期生は集まりました。歯科医療従事者のみならず、医学部の学生、医療とは関係の無い人も10名近く参加しています。恐らく、人と人が希薄になって来ている現代だからこそ、社会全体がコミュニケーションが必要になって来た、という事に回帰し始めているのかもしれません。『予防歯科』の前に『コミュニケーション歯科』であったり、『心療歯科』があっての『予防歯科』なのかもしれませんね。 |