1)はじめに
予防歯科と言われて久しい。しかし、ここ1〜2年になり、この勢いは加熱傾向にある。では、巷で騒がれるほど、どれだけ定着しているのだろうか?また、患者側の受け止め方はどうなのだろうか?そして予防歯科の中においての各医院の差別化を如何に図るのか?そういう事を模索しながら当院は歩んできたので、その1つとして『サリバテストの活用法』を紹介していきたいと思う。
2)医院の予防システム全般の概要
当院では4ヶ月間隔の定期健診を行っている。この定期健診のモデルは私が勤務していた大阪市城東区の『小児歯科なかよしプラザ』が基本となっている。(図1)
この定期健診を5回受診した患児にFriendly Clubに入会して頂き、唾液検査を開始していく。何故、5回目からなのか?とよく聞かれるが、これは患児の保護者と我々とのラポールが確立する時期が概ねこれくらいは必要かと考えての上である。よって、各医院で変化するものと考える。(図2)
唾液検査は、定期健診において、最低2回連続で行う方がより確実性があると思われる。よって、当院では5回目、6回目の定期健診で行う事としている。その後は、6歳臼歯が萌出した時期や永久歯が完成した時期などを勧める様にしている。(図3)
3)唾液検査への取り組み
1.導入の経緯
平成7年に大阪市西区においてフレンド小児歯科を開業した。先に述べた様に、勤務していた「小児歯科なかよしプラザ」をモデルにし、システムを導入するが、定期健診、保護者教室などに全く馴染みの無い地域だったので、開業当初は来院してもそれが「面倒臭い」という理由で離れて行く人も少なくはなかった。勤務していた時に当たり前に行っていた事が、これほどまでに大変なものか、と痛感した。システム自体を変えてしまおうかと悩んだ時期もあったが、自分のビジョンが根底から変わってしまう事も嫌で、何とか継続し、徐々に地域で受け入れられる様になった。が、当時の大阪市西部は口腔内がまだまだひどい状態で、毎日抜髄と抜歯に明け暮れていた。予防と言えば、フッ素とフィッシャーシーラント、後は問診により生活習慣からのアドバイスくらいだった。私よりもスタッフから「何とか改善する方法は無いものか?」という声が上がり始め、みんなで予防を勉強する事になった。
コンセプトは、「通り一遍等ではなく、各個人に合った予防指導を展開して行きたい!」であった。そして、行き着いたものがサリバテストであった。この導入により、
○ 細菌数(ミュータンス菌・プラーク量)
○ 唾液分泌量
○ 緩衝能
○ 食事記録(糖質量・飲食回数)
などから、その子自身の唾液の性質、生活スタイルよりその子の為の指導をし、必要な予防、不要な予防を見極めて行く事が可能となった。
しかし、我々が幾ら「良いモノ」という自負があっても、対象者がそう思ってくれなければ何もならない事も同時に勉強した。「高価」「面倒」などの理由で患者離れしたのも事実である。この状況は私自身にはかなり深刻で、開業当初と同様にこのシステムを取り入れた事を後悔しかけた時期もあった。しかし、スタッフの支えもあり、自分たちの道を信じて進むに従い、離れていた患者も半年ほどすると戻って来る、という面白い現象も体験できた。
2.使用している製品
当院ではCAT21Buf(販売モリタ)(図4)と、Dentocult及びDentobuf(販売OralCare)(図5)を使用している。
簡易、そして安価に出来るものは前者を、より詳しく調べたい時は後者を、後は年齢などを考慮しながら使い分けている。
その他として、前者を先ずは使用し、カリエスは無いが、CAT値が高い時などに後者へ移行するのも良いかと思う。1次スクリーニング、2次スクリーニング的な考え方である。
3.どの様に臨床に生かしているか?
検査自体の流れは、初日に検査をし、後日指導をしている。これら2日とも当院はそれぞれの担当歯科衛生士が行っている。
唾液分泌量、唾液緩衝能、細菌数より、個人の体質を知ることが出来る。これらから何処に着目し、どの予防をチョイスするのか?を保護者も一緒に考えて頂く。
1人の患児A君の例を追って紹介してみる。
先ず、採取した唾液と保護者に記入して頂いた3日間の食事記録表より、各項目にそれぞれ0〜3(3に近くなるほどリスクが上る)のスコアを付けて行く。
A君のケースだと
| う蝕経験(DMFT) |
3 |
|
全身疾患 |
0 |
| 食事内容 |
3 |
|
飲食回数 |
2 |
| プラーク量 |
1 |
|
Mutans Streptococci |
3 |
| フッ化プログラム |
0 |
|
唾液分泌速度 |
3 |
| 唾液緩衝能 |
2 |
|
臨床的判断 |
1 |
となった。そして、これらをコンピューターに打ち込むと円グラフが出来る。(図6)
結果は
う蝕を避ける可能性13%
食事 15% 細菌 12%
感受性 55% 環境 6%
となった。
担当歯科衛生士(松下 加奈子)からのコメントは
- 全体的にリスクが高いです。まず、よく噛む事によって、唾液分泌促進をしていきましょう。
- 水分摂取は母親が言わないと摂取しない程度で、食事を流し込んだりはしていない様です。
- 赤ちゃんの時によだれが少なかったと言う事で、やはり唾液の分泌量が少ない様です。分泌促進の為に調理法として、材料を少し大き目に切って、咀嚼回数を増加させるか、キシリトールで噛む練習も良いでしょう。口腔快適ゼリーの刺激で促進させるのも良いでしょう。母親と相談し、ファーストチョイスとして、具材を大きく切って試してみる事になりました。
- 歯磨剤の味が嫌で、本人はあまり使いたくないみたいですが、少しだけでも付けて磨く習慣も必要かもしれません。現在はデンタルリンスを使用していますが、フッ素が配合されていませんので、そちらよりも歯磨剤がお勧めでしょう。
であった。
流れとして、 母親と相談した結果、フッ素などではなく、日常の中で食材の調理方法を工夫してみる事となった。後は、仕上げ磨きを頑張る約束をして指導を終了している。
A君の2回目だ。
| う蝕経験(DMFT) |
3 |
|
全身疾患 |
0 |
| 食事内容 |
1 |
|
飲食回数 |
3 |
| プラーク量 |
2 |
|
Mutans Streptococci |
3 |
| フッ化プログラム |
0 |
|
唾液分泌速度 |
0 |
| 唾液緩衝能 |
1 |
|
臨床的判断 |
1 |
だった。
その結果が、
う蝕を避ける可能性39%
食事 20% 細菌 26%
感受性 5% 環境 10%
となった。
この円グラフから、かなり変わった事が伺える。(図7)
そして、担当歯科衛生士(松下 加奈子)からのコメントが
- 前回と比べ、唾液分泌量がかなり増加しています。時々炒め物の時に、材料を大きく切ったそうで、噛む習慣がついて、刺激により増加しているかもしれないですね。母親からも、食事は飲み込みがちだったが、よく噛む様になったと言ってもらいました。このまま続けて下さい。
- やはり糖質量が多いです。患児はもちが好きで、凝ると続けて食べるそうです。麺類も続いていました(食事記録表より)。麺類の時は麺を少しにして、野菜などを多くしましょう。ジュースが多いので、炭水化物の時はお茶などの飲み物にしましょう。
- SM菌は多いです。お父さんもカリエスが多く、苦労されている様子です。キシリトールを試してみるもの良いかもしれません。
であった。
内容は、前回の指導の通り、母親が食材に気を遣ってくれたお陰で唾液の分泌量はかなり変わって来ている。SM菌を考えると、キシリトールが効果がありそうなので、母親も遊び感覚で試してみると購入して帰宅している。
普段であれば、3回目は少し間を置く事が多いのだが、A君は母親からの希望で3回連続しているので、3回目を紹介する。
| う蝕経験(DMFT) |
3 |
|
全身疾患 |
0 |
| 食事内容 |
1 |
|
飲食回数 |
2 |
| プラーク量 |
1 |
|
Mutans Streptococci |
1 |
| フッ化プログラム |
0 |
|
唾液分泌速度 |
0 |
| 唾液緩衝能 |
1 |
|
臨床的判断 |
1 |
であった。そして、円グラフ(図8)からもはっきりと解るように、
結果は
う蝕を避ける可能性71%
食事 13% 細菌 7%
感受性 3% 環境 6%
と、劇的に変化した。担当歯科衛生士(松下 加奈子)からのコメントは
- 仕上げ磨きは本当に母親は頑張っている事が伺えます。口腔内のプラークの付着など本当に変わりました。このまま続いて欲しいです。
- キシリトールを試しに使ってみたら、A君も気に入った様子で、再度ボトルで購入されたそうです。SM菌の数は激減しました。気に入ってそして、使ってくれれば長続き出来そうですね。
- ほぼ、理想形になっています。これ以上は無理はしなくても、続ける事が大切だとお話ししました。
内容的に、日常の出来る事を変えて行く姿勢だったが、2回目が終わった時点で、SM菌が気になり、キシリトールへと踏み切ってみた母親だったが、効果自体に驚いていた。こういうA君の様に、効果がはっきりと目に見えると励みになるかと思う。
4.費用について
当院では、検査に1500円、指導に1500円請求している。患者から見ると高価というのが正直な感想みたいだが、検査の資料と指導までの時間の歯科衛生士の手間を考えると決して高くは無い。もう少しアップさせてもらいたいくらいだが、それは何時の日にか…と思っている。上記はあくまでも当院の金額設定である。
4)唾液検査を臨床に定着させる為に
先でも述べた様に、システムを改革する時、それは大変なエネルギーが必要だと思う。すんなり行けばそれに越した事は無い。しかし、人と言う生き物は環境の変化をとかく嫌がる生き物である。よって、自分が通院していた歯科医院のシステムが変化する事を嫌う患者さんも多々いるかと思う。しかし、それは、医療従事者の「何故必要なのか?」という熱い想いがあれば、必ず伝わると思っている。そして、その熱い想いに付いて来てくれる患者の為にも良い結果を出して行かねばならない。医療従事者、患者、双方に大変な時期となる。しかし、それを乗り越えるとそこにはきっと良好な関係が生れる事も解っている。何故なら、そこには患者の事を考えて、より良い人生を送ってもらいたい!という医療従事者の熱い熱い想いがあるからだ。
さて、観念論はそれくらいにして、当院におけるシステムなどの紹介をしていく。
先ず、Friendly Clubは希望者ではなく、定期健診5回目に達すると全員入会してもらう。ここを希望者のみにすれば、唾液検査をしない患者の方が圧倒的に多い事が推測出来るからだ。
我々に「良いもの!」という信念があれば、少々無理強いでも良いかと思う。そして、それが医院の目指す方向性を明確に患者へ示してくれるものと信じている。但し、これは各人の考え方なので医院によってはまちまちである。因みに、このClubの入会金は無料としている。入り易い心理状態を作る効果もある。入会すると、冊子を2冊配付している。(図9)
1冊はMATERIALl編で、これは歯科の事や、おやつなど、色々な情報を盛り込んでいる。
もう1冊はRECORD編と言い、入会してからの唾液検査の結果や、定期健診の結果などを記録するものである。
こういう物を渡すことによってClubに入会したことに対して認識してもらう働きがある。
検査を初めて行う前にオリエンテーションを開く。ここで、「何故唾液検査が必要なのか?」を話し、理解を促す。この時にスライドを使い、検査の内容と方法を一緒に説明すれば、理解を求めやすいかと思う。ここに当院のスライドとその説明内容を紹介する。
(1)「何故フレンドリークラブが必要なのでしょうか?」part1
ここでは、フレンドリークラブの理念的なものについて触れている。
以下、説明文を記す。
- 治療は歯科医院みな同じ考えだと思いますが、他よりも、より良い治療を行う事を目標にフレンド小児歯科ではセミナー参加や勉強会を重ねています。そして、何より子供達に優しい治療、即ち、メンタリティーな部分を大事にしています。
- カリエスを早く見付けるということは、色々なメリットがあります。1つは、早く治療が出来る、という事です。これは、治療内容が軽く、回数が少なく済むので、本人の負担が軽減します。治療費も高額になりません。
- これが1番大事です。私達も頑張り、患児・保護者の協力を得ることが出来、少しずつカリエスは減ってきましたが、フレンド小児歯科の目指しているのは、イキイキ過ごすと共に、健診毎にカリエスが「0本」での合格です。
これらを話して、自院のアピールをする。そして、予防の必要性を解釈してもらう。(図10)
(2)「何故フレンドリークラブが必要なのでしょうか?」part2
唾液検査をする意義について触れる。以下説明文を記す。
フレンドリークラブとはフレンド小児歯科での予防システムです。
そこでは、唾液検査を行い、う蝕のリスクを調べます。結果に応じて効果的なう蝕の予防法を探る事を目的としています。
唾液検査を行う事で私たち医療従事者は、患者の口腔内の状態を把握することが出来ます。その結果、みなさんの口腔内が今後どのように推移して行くかをある程度予測し、結果を解り易くみなさんに説明し、具体的な予防方法を示す事が出来ます。そういう中で本当に必要な予防方法を取捨選択します。
ただの予防ではなく、1人1人にあわせた予防をして行くことが大事だという事を解ってもらう。(図11)
(3)唾液の役割
摂取する唾液の役割を話す事によって、必要性を理解してもらう。また、唾液に関心を持ってくれる事を期待する。(図12)
(4)検査内容
検査をする内容について、説明する。(図13)
(5)唾液の緩衝能
「緩衝能」という耳慣れない言葉について説明する。(図14)
(6)唾液の分泌速度
最近はよだれかけをしている赤ちゃんを見なくなった。逆によだれの多い子供を持つ母親は「何故うちの子だけ?」と悩む。唾液の量が多い方が良いことをここで説明する。(図15)
(7)唾液分泌量の基準
大体平均どれくらいあれば良いのか?について説明する。多い分には気にしないよう指導している。(図16)
(8)ミュータンス菌の測定
SM菌が多いか少ないかにより何が解るかを説明する。(図17)
(9)方法1
足が地面についている方が、安定した唾液が出易い状態になる。その為、小さい子供の場合は、足元に台を置くか、小さい椅子を用意する。(図18)
(10)方法2
パラフィン(無味無臭)を30秒噛んでもらい、唾液は捨てる。その後再度噛んでもらうようにする。(図19)
(11)方法3
その後、5分間分泌される唾液をコップに吐き出させる。(図20)
(12)方法4
注射筒に唾液を採取し、何ミリリットルかを測り、分泌量を測定する。(図21)
(13)方法5
採取した唾液の一部を試験用ストリップに落とし、5分後に色の変化を調べ、緩衝能を調べる。紺色が良いが、小児は緩衝能が元々良くないので緑色でも大丈夫である。(図22)
(14)方法6
舌の上でストリップをこすり(図23)、
培養試験管に入れ(図24)、
培養機にて2日間培養する。これにより、ミュータンス菌を調べる。(図25)
これらのスライドで検査がスムーズに行われる様に説明する。そして、やる気を高める。
また、少しの工夫でかなり指導の内容は変化する。例えば、CAT21Bufのテストチューブの半分(0,5cc)まで唾液を入れてよく振ると橙色になる。(図26)
その後通常(1,0cc)通り唾液を足して振ると赤くなる。(図27)
これは唾液の量が少ないと緩衝能が低く、唾液が多くなると緩衝能が高くなる事を指導する時に有効である。こういう工夫も各医院のスタッフでアイディアを出してみると面白い。
5)おわりに
以上、サリバテストをフレンド小児歯科で如何に活用しているかを書いてきた。
医院に導入する際、ポジショニングをしっかりと考えておかなければならないかと思う。フレンド小児歯科では、サリバテストを導入したことで定期健診の受診率が80%から95〜100%へと上がった。しかし、その結果はすぐに現れたわけではない。システム的な問題、金額的な問題などクリアーしなければならない問題はきっとある。使い方一つで良いものにもなれば悪いものにもなる。患者呼び込みのものではなく、患者のモチベーションをあげるもの、と捉えた方が良いかと思う。
最近『予防歯科』という言葉が流行の様に使われつつある。しかし、その事によって虫歯を作ってしまう事を罪悪と捉えてしまう保護者も多い。医療従事者にとって都合の良い予防歯科ではなく、患者の立場にとって良い予防歯科でなければならない。サリバテストも解り易いものではあるが、我々にとって、患者を誘導するツールであってはならない。患者と一緒に「どうなれば良いのか?」を探し、その為に「何が必要なのか?」そして、その時に「心=行動にどういう変化が起こるのか?」を話し合う『コミュニケーション』が大切だという事も忘れてはならないだろう。
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